「課長に昇進したのに、残業代が出なくなった」
「管理職だから残業代はもらえないと会社に言われた」
実はこれ、名ばかり管理職かもしれません。
名ばかり管理職は労働基準法で定められた管理監督者には該当せず、本来であれば残業代を請求できる立場にあります。
しかし、多くの方が「管理職なのだから仕方ない」と諦めてしまい、正当な権利を主張できていないのが現状です。
この記事では、名ばかり管理職の基準から実際の判例まで、残業代請求に必要な情報を詳しく解説します。
自分が名ばかり管理職に該当するかチェックリストで確認し、適切な対処法を知って、未払いの残業代を取り戻しましょう。
目次
名ばかり管理職に当てはまるなら「残業代なし」は違法

名ばかり管理職として扱われている方は、管理職という肩書きがついているにもかかわらず、労働基準法上の管理監督者には該当しないため、残業代を請求する権利があります。
会社から「管理職だから残業代は出ない」と言われても、それが違法である可能性は十分にあるのです。
名ばかり管理職への残業代不払いは労働基準法違反に該当し、会社には罰則が科せられるからです。
管理職という名前だけで実質的な権限がない状態で残業代が支払われないのは、明らかに労働者の権利を侵害している行為だと言えます。
名ばかり管理職は残業代を請求できる
名ばかり管理職に該当する方は、未払いの残業代を会社に請求できます。
たしかに、労働基準法では、管理監督者には労働時間や休日に関する規定が適用されないと定められています。
しかし、名ばかり管理職はこの管理監督者に該当しません。
実際に、日本マクドナルド事件やレストランビュッフェ事件など、多くの裁判で名ばかり管理職への残業代請求が認められています。
あなたが管理職という肩書きを持っていても、経営者と一体的な立場にない場合や、労働時間の裁量がない場合は、正当な残業代を受け取る権利があるのです。
3年間さかのぼって請求可能
未払い残業代は、賃金支払日から3年間さかのぼって請求することができます。
労働基準法の改正により、2020年4月1日以降に発生した賃金については、時効期間が従来の2年から3年に延長されたからです。
たとえば月50時間の残業を3年間続けていた場合、請求できる残業代は数百万円に達する可能性もあります。
ただし、時効は刻一刻と進行しているため、請求を考えているなら早めに行動することが重要です。
名ばかり管理職とは「管理監督者」に当てはまらない管理職

名ばかり管理職とは、会社内で管理職という肩書きを与えられているものの、労働基準法で定められた管理監督者の要件を満たしていない労働者のことを指します。
つまり、形式的には管理職であっても、実態が伴っていないために残業代が不当に支払われていない状態なのです。
経営にかかわる実質的な決定権がない
名ばかり管理職の典型的な特徴として、経営に関わる実質的な決定権がない点が挙げられます。
管理監督者として認められるには、企業の経営方針や重要事項の決定に関与できる必要があるからです。
たとえば、部下の採用や解雇について意見を述べることはできても、最終的な決定権は上層部が持っているような場合は、経営者と一体的な立場とは言えません。
また、経営会議に参加したことがない、商品の価格設定に関与できないといった状況も、管理監督者としての要件を満たさない証拠となります。
労働時間の裁量性がない
名ばかり管理職のもう一つの特徴は、自分の労働時間を自由に決定できる裁量がないという点です。
管理監督者は、その職務の性質上、労働時間の規制になじまない立場にあるべきだからです。
具体的には、出退勤時間が厳格に決められている、タイムカードで勤怠管理されている、遅刻すると賃金が減額されるといった状況は、労働時間の裁量性がないことを示しています。
例えば、決められた時間に出社しなければならない課長などは、実質的に労働時間を自由に決定できていないと判断されるのです。
地位にふさわしい処遇を受けていない
名ばかり管理職は、管理職としての地位にふさわしい報酬や待遇を受けていないケースもあります。
たとえば、管理職手当が月数万円程度しか支給されておらず、長時間残業をした結果、時給換算すると一般社員よりも低くなってしまうような場合です。
管理監督者として認められるには、重要な職責に見合った十分な賃金や待遇が必要です。
また、自分より給料が高い一般従業員がいる、役員と比較して圧倒的に給料が低いといった状況も、管理監督者としての待遇を受けているとは認められません。
労働基準法における名ばかり管理職と管理職の決定的な違い

労働基準法における管理監督者と名ばかり管理職の最も大きな違いは、その実態が法律の要件を満たしているかどうかという点にあります。
管理監督者として認められるには、単に役職名があるだけでは不十分です。
職務内容・権限・責任・勤務態様・待遇のすべてにおいて基準を満たす必要があります。
厚生労働省の通達でも、管理監督者かどうかは名称ではなく実態に即して判断すべきとされており、課長や部長といった役職名だけで管理監督者に該当するわけではありません。
一方、名ばかり管理職は、会社が独自の基準で管理職という肩書きを与えているだけで、労働基準法上の管理監督者の要件を満たしていない状態を指します。
実際の裁判例を見ても、管理監督者として認められるハードルは非常に高く、多くの管理職が名ばかり管理職に該当すると判断されているのが現状です。
ところが、企業が人件費削減のために、「管理職には残業代を払わなくてよい」と、都合のよい解釈で制度を悪用しているケースが後を絶ちません。
会社が「名ばかり管理職」を作る背景
会社が名ばかり管理職を作り出す最大の理由は、人件費を削減したいという経営上の思惑があるからです。
管理監督者には残業代や休日手当を支払う必要がないため、形だけでも管理職にすれば、人件費を大幅に抑えられると考える企業が少なくありません。
実際、月に100時間を超える残業をさせても残業代を支払わなければ、年間で数百万円単位のコスト削減につながるからです。
また、IT化や組織のフラット化により、かつては管理監督者として認められていた権限が本社や上層部に集約されてしまったという、時代的な背景もあります。
店長や課長という役職は与えられているものの、採用・人事評価・予算決定などの重要な権限は上位者が握っており、現場の管理職は指示された業務をこなすだけという状況が生まれているのです。
さらに、労働基準法の管理監督者の定義があいまいで、企業が自由に解釈できる余地があることも、名ばかり管理職が横行する一因となっています。
こうした背景から、多くの労働者が不当に残業代を奪われ、長時間労働を強いられているという深刻な問題が社会問題化しているのです。
名ばかり管理職の基準・チェックリスト10項目

自分が名ばかり管理職に該当するかどうかを判断するために、以下の10項目のチェックリストを確認してみましょう。
これらの項目のうち、3個以上該当する場合は、労働基準法上の管理監督者とは認められず、残業代を請求できる可能性が高いと考えられます。
実際の裁判例でも、これらのチェック項目が管理監督者性を判断する重要な基準として用いられています。
1.部下の採用・評価・解雇に関する決定権がない
部下の採用や人事評価、解雇について最終的な決定権を持っていない場合、管理監督者としての要件を満たしていません。
管理監督者には、人事に関する重要な決定権限が必要だからです。
たとえば、採用面接に立ち会うことはあっても最終決定は人事部や上司が行う、部下の評価について意見を述べられても上位者の承認が必要といった状況では、実質的な人事権を持っているとは言えません。
2.予算の決定・執行に関する権限がない
店舗や部署の予算を自分の裁量で決定したり執行したりする権限がない場合、経営者と一体的な立場にあるとは認められません。
管理監督者には、経営に直接影響を与える予算管理の権限が求められるからです。
予算が本社から一方的に割り当てられる、支出について上司の承認が必要、経費の決裁権限が限られているといった状況は、予算決定権がないことを示しています。
3.出退勤の時間を自らの裁量で決定できない
出社時間や退勤時間が会社によって厳格に定められており、自分の裁量で自由に決められない場合は、管理監督者の要件を満たしていません。
管理監督者は、その職務の性質上、労働時間の規制に縛られない立場にあるべきだからです。
必ず9時に出社しなければならない、営業時間中は必ず店舗にいなければならない、早退や遅刻について上司の許可が必要といった状況は、労働時間の裁量性がないことを意味します。
4.自分より給料が高い一般従業員がいる
管理職であるにもかかわらず、一般従業員の中に自分より給与が高い人がいる場合、管理監督者としての待遇を受けているとは言えません。
管理監督者には、その職責に見合った十分な賃金が必要だからです。
残業代を含めた年収で比較したとき、管理職手当だけでは一般従業員の残業代に及ばず、結果として総収入が逆転してしまうような状況は、明らかに待遇が不十分だと判断されます。
5.役員よりも圧倒的に給料が低い
役員と比較して給与水準が圧倒的に低い場合、経営者と一体的な立場にあるとは認められません。
管理監督者は、経営陣に準じた待遇を受けるべき立場だからです。
役員報酬が年収2000万円なのに対して管理職の年収が600万円といったように、大きな格差がある場合は、管理監督者としての処遇がなされているとは言えないでしょう。
部下がいない
管理職という肩書きがあっても、実際には部下が一人もいない場合、管理監督者としての職務を担っているとは認められません。
管理監督者には、他の労働者を監督・管理する立場にあることが求められるからです。
プロジェクトリーダーや係長という役職名だけを与えられて、実際には一人で業務を遂行しているような状況は、管理監督者の要件を満たしていないと判断されます。
遅刻したら賃金が減らされる
遅刻や早退をすると給与が減額される制度になっている場合、労働時間に対する厳格な管理を受けていることになり、管理監督者とは認められません。
管理監督者は、出退勤について自由裁量を持つべき立場だからです。
時間単位での欠勤控除が行われる、遅刻・早退が人事評価に悪影響を及ぼすといった扱いを受けている場合は、実質的に一般従業員と変わらない勤怠管理がなされていると言えます。
経営会議に参加したことがない
会社の経営方針を決定する経営会議に一度も参加したことがない場合、経営者と一体的な立場にあるとは言えません。
管理監督者には、経営に関する重要事項の決定に関与する機会が必要だからです。
上層部からの指示を受けて実行するだけで、経営方針の策定過程に全く関与できていない状況では、管理監督者としての職務を担っているとは認められないでしょう。
商品の内容や価格を決める権限がない
販売する商品の選定や価格設定について、自分で決定する権限がない場合、経営判断に関与しているとは言えません。
管理監督者には、事業運営に直接影響を与える決定権限が求められるからです。
本社から指定された商品を指定された価格で販売するだけ、メニューや価格は本部が一律に決定するといった状況では、店舗レベルの業務執行にとどまっており、管理監督者の要件を満たしていません。
タイムカードで管理されている
タイムカードやICカードで出退勤時刻を記録され、労働時間を厳格に管理されている場合、管理監督者の要件である労働時間の裁量性がないと判断されます。
管理監督者は、労働時間の規制に縛られない立場にあるからです。
出退勤時刻の打刻が義務付けられている、勤務時間が細かく記録されている、残業時間が集計されているといった管理を受けている場合は、一般従業員と同様の扱いを受けていることになります。
自分が「名ばかり管理職」だった時の相談先

自分が名ばかり管理職に該当すると判断した場合、まずは証拠を収集したうえで、適切な相談先を選んで行動することが重要です。
相談先には労働基準監督署、労働組合、弁護士などがあり、それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なります。
まずは証拠を収集する
相談や請求を行う前に、まずは未払い残業代を証明するための証拠をしっかりと集めておくことが不可欠です。
証拠がなければ、残業の実態を証明することが難しく、請求が認められない可能性があるからです。
具体的には、タイムカード、業務日報、PCのログイン・ログアウト記録、メールの送信時刻、上司への業務報告書などが有効な証拠となります。
また、就業規則、雇用契約書、給与明細、人事評価シートなども、自分の職務内容や権限、待遇を示す重要な資料となるため、コピーを取るなどして保管しておきましょう。
退職後に証拠を集めることは困難になるため、在職中から計画的に証拠を収集しておくことが重要です。
①匿名で労基署に相談
労働基準監督署は、労働基準法違反の申告を受け付ける公的機関であり、匿名での相談も可能です。
労基署に相談すると、会社に対して調査や是正勧告を行ってくれる可能性があるからです。
ただし、労基署は個別の残業代請求を代行してくれるわけではなく、あくまで会社の違法行為を是正させる機関であるという点に注意が必要です。
また、労基署が動くかどうかは案件の緊急性や悪質性によって判断されるため、必ずしも希望通りの対応をしてもらえるとは限りません。
匿名で相談できる反面、具体的な残業代の回収まで支援してもらうことは難しいと考えておくべきでしょう。
②労働組合に相談
社内に労働組合がある場合、または外部のユニオンに加入して相談することも選択肢の一つです。
労働組合は、組合員の労働条件改善のために会社と交渉する権限を持っているからです。
集団での交渉力を背景に、会社に対して残業代の支払いや労働環境の改善を求めることができます。
ただし、組合が必ずしも残業代請求に積極的に取り組んでくれるとは限らず、また交渉が長期化する可能性もあります。
労働組合を通じた解決は、会社との関係を維持しながら問題を解決したい場合に適していると言えるでしょう。
③全面的に争うなら弁護士に相談
確実に未払い残業代を回収したい、または会社と全面的に争う覚悟がある場合は、弁護士に相談することが最も有効です。
弁護士であれば、すべての手続きを任せることができるからです。
- 証拠の分析
- 残業代の正確な計算
- 会社との交渉
- 労働審判や訴訟の提起
特に、管理監督者性の判断には専門的な法律知識が必要であり、裁判例の分析や法的な主張の組み立てには弁護士の専門性が不可欠です。
弁護士費用はかかりますが、成功報酬制を採用している事務所も多く、初回相談を無料で行っている事務所もあります。
回収できる残業代の額を考えれば、弁護士に依頼する価値は十分にあると言えるでしょう。
名ばかり管理職が違法となった大企業の判例

名ばかり管理職をめぐっては、これまで多くの裁判が行われ、大企業であっても違法な取り扱いが認定されてきました。
ここでは、社会的に大きな影響を与えた代表的な2つの判例を紹介します。
日本マクドナルド事件
日本マクドナルド事件は、名ばかり管理職問題が社会的に広く認知されるきっかけとなった極めて重要な判例です。
この事件は2008年1月に東京地方裁判所で判決が出され、ハンバーガーチェーンの直営店長が管理監督者に該当しないと判断されました。
店長は店舗内の従業員を統括し、アルバイトの採用やシフト決定、売上管理などを任されていましたが、裁判所は管理監督者とは認めませんでした。
店長の権限が店舗内の事項に限られていたからです。
- 企業経営上の重要な決定には関与していなかった
- したアルバイトの労働条件は最終的に会社が決定していた
- 自らシフトに入らざるを得ず月100時間を超える残業もあった
- 給与水準が管理監督者としては不十分だった
などが指摘されました。
会社側は店長を労働基準法第41条2号の管理監督者として扱い、残業代を支払っていませんでしたが、裁判所はこれを違法と判断し、過去2年分の割増賃金の支払いを命じたのです。
レストランビュッフェ事件
レストランビュッフェ事件は、1986年7月に大阪地方裁判所で判決が出された古い判例ですが、名ばかり管理職の判断基準を示す重要な事例として今も参照されています。
この事件では、ファミリーレストランの店長が管理監督者に該当するかどうかが争われました。
店長は6〜7名の従業員を統括し、ウエイターの採用に一部関与し、材料の仕入れや売上金の管理を任されていましたが、裁判所は管理監督者性を否定しました。
判決では、店長がコックやウエイター、レジ係、掃除など全般的な業務をこなしていたこと、勤務時間が完全にタイムレコーダーで管理されており出退勤の自由がなかったことなどが指摘されました。
管理職手当として月額3万円程度が支給されていましたが、実際の勤務実態を考慮すると管理監督者としての待遇とは言えないと判断されたのです。
まとめ:名ばかり管理職に当てはまる要件は意外と多い

名ばかり管理職に該当する要件は、多くの管理職の方が想像している以上に幅広く設定されています。
単に部下がいる、役職名がついているというだけでは、労働基準法上の管理監督者とは認められないからです。
- 経営に関わる実質的な決定権がない
- 労働時間の裁量がない
- 地位にふさわしい処遇を受けていない
という3つの要素のいずれかに該当すれば、名ばかり管理職である可能性が高いと言えます。
本記事で紹介したチェックリストの項目に複数当てはまる方は、残業代を請求できる権利がある可能性が高いです。
日本マクドナルド事件やレストランビュッフェ事件といった大企業の判例でも明らかなように、裁判所は管理監督者の要件を厳格に判断しています。
もし自分が名ばかり管理職に該当すると思われる場合は、まず証拠を収集し、労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。
残業代請求の時効は3年間ですので、早めに行動を起こすことが重要です。
サービス残業代が3年間で100万円を超えるケースも
名ばかり管理職として長時間労働を続けてきた方の中には、未払い残業代が3年間で100万円を超えるケースも珍しくありません。
たとえば、時給換算で2,500円程度の方が月50時間残業した場合、1か月の残業代は約15万6千円となります。
これを36か月分計算すると、約560万円もの残業代が未払いになっている可能性があるのです。
さらに、労働基準法では未払い残業代に加えて、同額の付加金の支払いを裁判所が命じることができると定められており、実際に支払われる金額はさらに増える可能性もあります。
多くの方は「管理職だから仕方ない」と諦めてしまいがちですが、法律上の権利として正当に請求できる金額がこれほど大きいことを知っておくべきです。
自分が名ばかり管理職に該当すると感じたら、まずは証拠を集め、専門家に相談することから始めてみてください。

法律事務所FORWARD 代表弁護士
監修者:保坂 康介(ほさか こうすけ)
弁護士登録から11年が経過し、これまで一つ一つの案件に丁寧に向き合い、着実に実績を積み重ねてまいりました。借金問題解決を強みとしており、今後も皆様と共に前進し、弁護士として的確な法的サポートを提供できるよう努めてまいります。

