会社を被告として損害賠償請求訴訟
最近のニュースで、とある会社の元従業員が「自分が新型コロナウィルスに感染したのは、会社が感染対策を怠ったまま社内研修を実施したからである」として、会社を被告として損害賠償請求訴訟を提起したという記事を目にしました。
これは、元従業員が訴訟という裁判手続を利用してきているので、会社としても被告として応訴する必要があることは言うまでもありませんが、こうした事例を通して会社経営者の皆様としてやるべきことは「従業員のコロナ感染について、会社が責任を負うのはどういう時か」ということを学び、会社が責任を負わないようにするための対策を準備したり講じたりしていくことです。
1 安全配慮義務
まず、会社が従業員に対して負っている一般的な義務として、「安全配慮義務」というものがあります。
これは労働契約法第5条に定められている会社の義務です。つまり、労働契約法5条では「使用者(会社)は、労働契約に伴い、労働者(従業員)がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めているのです。
従業員が新型コロナウィルスに感染した場合、会社はどのような場合に、この「安全配慮義務」に違反し、従業員に損害を与えたとして、その損害を賠償する責任を負うこととなるのでしょうか?
2 因果関係
従業員が新型コロナに感染したからと言って全ての場合に会社が責任を負うわけではありません。従業員の感染が業務との関連性が肯定されなくてはなりませんし、それが会社の対応(なんの対策をも講じなかったという不作為も含む)と因果関係が認められなければ、会社の損害賠償責任は認められません。
この種の訴訟ではこの因果関係の立証がなされているかどうかが会社が責任を負う追わないの分水嶺になることが多いように思います。
3 やるべきこと
このように、従業員がコロナに感染した場合にその従業員から対策を怠ったとして提訴され、賠償責任を負わないようにするためには、業務との関連性があるとは言えないと裁判所に判断せしめる程度に事前に用意しておかなくてはなりません。
具体的には、厚生労働省、経済産業省、労働者健康安全機構等の公的機関が推進・紹介している感染症対策等を参考にし、各々の業態・業種に即した感染症対策の方針を明示し、そしてこの方針を周知させるとともに、対策を実施していることを記録・証拠として保存していることが大切であると考えます。
もちろん事案は個別要素がありますから対策が講じられていれば必ず提訴や賠償のリスクを回避することができると明言することはできませんが、上記の方針立て、周知、実施が明らかになっている場合には会社としてやるべきことをやっているとの印象を持ってもらえることは間違いありませんから、リスクの軽減にはつながることは明らかです。