
自社の社員が、SNSで会社の悪口を書き込んでいる。それを目にした今、頭にあるのは「この投稿を今すぐ消させたい」「書いた本人を懲戒処分にしたい」、この2つではないでしょうか。
ただ、勢いのまま動くのは危険です。投稿の削除も懲戒処分も、やり方を間違えると、逆に会社側が「不当な懲戒処分だ」「やりすぎだ」と社員から訴えられかねません。
この記事では、経営者・人事担当の方に向けて、投稿を削除できるのか、社員を懲戒処分できるのか、進めるならどう動くべきかを、実務の流れに沿って解説します。
まず結論|投稿を見てすぐ懲戒処分の判断をするのは危険です
最初にお伝えしたい結論はシンプルです。「悪口を書かれた=すぐ懲戒できるではない」
日本の法律では、会社が社員に懲戒処分を下すには、厳格なルールが課せられています。感情的に「けしからん、クビだ」と進めてしまうと、後から無効とされ、かえって会社が不利な立場に追い込まれることが少なくありません。
勢いで下した懲戒が、逆に「不当処分」で訴えられる理由
懲戒処分、とりわけ解雇は、社員の生活を根底から揺るがす重い措置です。そのため法律や裁判所は、会社側の対応に対して非常に厳しい目を向けます。
投稿内容の重大さに対して懲戒が重すぎたり、本人に弁明の機会を与えないまま対応を決めたりすると、「行き過ぎ」と判断されます。結果として解雇は無効。社員から地位確認や未払い賃金(解雇されていなければ支払われていたはずの給料)を請求され、会社が数百万円単位の支払いを命じられるケースもあります。
「悪いのは投稿した社員のはず」。そう感じても、手続きを誤れば立場が逆転する。これがSNSトラブル対応の難しさです。
懲戒処分の前に知っておきたい2つのルール
懲戒処分が有効と認められるには、大きく2つの条件を満たす必要があります。
ひとつは、客観的に見て合理的な理由があること(客観的合理性)。「なんとなく気に食わない」ではなく、就業規則に照らして懲戒に値する事実が、証拠とともに存在していること。
もうひとつは、懲戒処分の重さが行為に見合っていること(社会的相当性)。軽い違反にいきなり解雇をぶつけるのは相当性を欠きます。まずは注意・指導、それでも改まらなければ段階的に、という積み重ねが求められます。
この2つは、SNS投稿に限らずあらゆる懲戒処分の土台となる考え方です。まずはここを押さえてください。
懲戒処分にできる投稿・できない投稿の見分け方
ひとくちに「会社の悪口」と言っても、その中身はさまざまです。対象になる投稿もあれば、実は手を出しにくい投稿もあります。線引きを整理しておきましょう。
認められやすいケース(悪質な暴露・情報漏らし)

会社の信用を実際に傷つけたり、事業に具体的な損害を与えたりする投稿は、懲戒処分が認められやすい典型です。
たとえば、事実と異なる内容で会社や上司を貶める投稿(名誉毀損)。取引先の名前や社内の機密情報、顧客データを漏らす投稿(守秘義務・情報管理義務違反)。あるいは、勤務先が特定できる形で差別的・違法な発言を繰り返し、会社の評判を落とす投稿。
こうした「会社に実害が及ぶ」「業務上の義務に明確に違反している」投稿は、懲戒処分を検討する正当な理由になり得ます。
認められにくいケース(ただの愚痴・書いたのが誰か分からない投稿)

一方で、懲戒処分に踏み切りにくいのが、個人的な不満や愚痴の範囲にとどまる投稿です。
「今日は残業がきつかった」「うちの会社、給料上がらないなあ」といった、会社が特定されない私的なぼやき。これらは表現の自由の範囲内と見られやすく、これを理由に何らかの対応をすると過剰反応と判断されがちです。
また、投稿者が本当に自社の社員なのか特定できないケースも要注意。匿名アカウントの投稿を「あいつに違いない」と決めつけて懲戒処分し、後で人違いだった、では取り返しがつきません。「誰が」「何を」書いたかを客観的に固められるかが、対応の出発点になります。
休日・個人アカウントの投稿でも懲戒処分できる?
「業務時間外に、私物のスマホで、個人のアカウントから投稿したものまで会社が口を出せるのか」。よくいただく疑問です。
結論としては、プライベートな投稿でも懲戒処分の対象になり得ます。ポイントは投稿した時間や場所ではなく、その投稿が会社の信用や事業にどれだけ影響を与えたか。休日の個人アカウントであっても、勤務先が特定でき、その内容が会社の名誉を著しく害するなら、検討対象になります。
逆に言えば、会社と結びつかない純粋な私生活上の発言にまで踏み込むのは行き過ぎ。「プライベートかどうか」より「会社への影響があるか」で考える、と覚えておいてください。
会社がやるべきことの全体像【5ステップ】
では、実際にSNSトラブルが起きたとき、会社はどう動けばいいのか。慌てず、順番どおりに進めることが何より大切です。対応の流れを5つのステップに分けて示します。
STEP1 まず証拠を残す
最初にやるべきは、証拠の保全です。投稿はいつ削除されるかわかりません。見つけた時点で、すぐに記録を残してください。
このとき、スクリーンショットだけでは不十分な場合があります。画像は加工が疑われることもあるため、投稿のURL、投稿日時、アカウント名、可能なら投稿ページ全体をそのまま保存する、といった形で、後から「本物だ」と証明できる残し方を意識します。ここが甘いと、後の手続きすべてが土台から崩れます。
STEP2 本人に話を聞く
証拠を押さえたら、次は本人への事実確認(ヒアリング)です。懲戒ありきで詰問するのではなく、まず事実を確かめる姿勢で臨みます。
「この投稿はあなたのものか」「どういう意図だったのか」を落ち着いて聞き取る。本人に弁明の機会を与えるこのプロセスは、後で懲戒処分の有効性を問われたときに「手続きを尽くした」と示す重要な材料にもなります。省略してはいけない工程です。
STEP3 どの懲戒処分にするか決める(注意・減給・出勤停止・クビの使い分け)
事実が固まったら、投稿の悪質さに見合った懲戒処分を選びます。懲戒処分には段階があります。
軽い順に、口頭・書面での注意(けん責)、給与を一部減らす減給、一定期間出社させない出勤停止、そして最も重い懲戒解雇(クビ)。
軽微な投稿にいきなり解雇をぶつけるのは相当性を欠き、無効になりやすいというのは、前述のとおりです。行為の重さと処分の重さを釣り合わせる。この見極めが対応の核心であり、最も判断に迷うところでもあります。
STEP4 投稿を消してもらう・書いた人を特定する
懲戒処分と並行して、投稿そのものへの対処も進めます。
投稿が残り続けると被害は広がります。本人に削除させる、応じない場合はSNS運営会社へ削除を求める(削除請求)。投稿者が匿名でわからないときは、法的手続きによって発信者を特定する方法(発信者情報開示請求)もあります。誰が書いたかを突き止め、被害の拡大を止める。ここは専門的な手続きになるため、弁護士の関与が特に効いてくる場面です。
STEP5 同じことが起きないよう社内に伝える
対応の締めくくりは、再発防止です。個別のトラブルを処理して終わり、では次がまた起きます。
今回の件を踏まえ、SNS利用に関する社内のルールを改めて周知する。何が問題で、どう対応したのかを(個人が特定されない形で)社内に共有し、「会社はきちんと見ている」という姿勢を示す。この一手間が、次のトラブルを未然に防ぐ抑止力になります。
二度と繰り返さないための備え
SNSトラブルは、起きてから対応するより、起きない仕組みを整えておくほうが、はるかにコストもストレスも小さくて済みます。平時にできる備えを2つ紹介します。
就業規則・SNSのルールで決めておくこと
そもそも懲戒処分は、就業規則に根拠がなければ下せません。
「こういう行為をしたら、こう対応する」という定めが事前になければ、いざというときに懲戒処分ができないのです。
就業規則の懲戒事由に、SNSでの信用毀損や情報漏えいに関する項目が入っているか。あわせて、SNS利用に関するガイドライン(会社が特定される形での投稿の注意点、機密情報の取り扱いなど)を用意しておくと、社員への注意喚起と、万一の際の懲戒の根拠の両方になります。
入社時の誓約書に入れておきたい一文
入社のタイミングで、SNSや情報管理についての誓約書を交わしておくのも有効です。
「業務上知り得た情報を外部に漏らさない」「会社の信用を損なう投稿をしない」といった条項に本人の署名をもらっておく。これがあると、社員本人の意識が高まるだけでなく、トラブル発生時に「本人も了承していた」という事実を示せます。入り口でひと手間かけておくことが、後々の大きな安心につながります。
SNSトラブルは「起きてから」では遅い
ここまで読んで、「思っていたより、やることが多い」と感じられたかもしれません。証拠の残し方、懲戒処分の選び方、削除や特定の手続き、再発防止の仕組みづくり。SNSトラブルへの対応は、判断を一つ誤るだけで会社が不利になる、繊細な作業の連続です。
そして何より、こうしたトラブルは待ってくれません。投稿が拡散する前に、迅速かつ的確に動けるかどうかが被害の大きさを左右します。
その都度お願いする場合と、顧問契約の違い(費用とスピード)
トラブルが起きてから初めて弁護士を探すとなると、まず事務所を探し、事情を一から説明し、というところで時間を取られます。その間にも投稿は広がっていく。緊急対応は費用も高くつきがちです。
一方、顧問弁護士がいれば、会社の実情を普段から把握している弁護士に、その場ですぐ相談できます。「この投稿、どうたいおうすればいい?」という判断も、証拠の残し方も、いざというときに即座に動ける。トラブルの芽が小さいうちに摘めることも多く、結果として対応コストを抑えられます。SNSに限らず、契約書のチェックや売掛金の回収といった日常の法務も気軽に相談できるのは、顧問契約ならではの安心感です。
FORWARDジャパンの顧問実績(20社・幅広い業種のご相談に対応)
弁護士法人FORWARDジャパンでは、現在およそ20社の企業と顧問契約を結び、日々の法務をサポートしています。
IT、建築、飲食、リフォーム、各種スクール運営など、業種は多岐にわたり、1人社長の会社から従業員数十名規模の企業まで、規模を問わずご相談をお受けしています。SNSトラブルはもちろん、社員トラブル、契約書のチェック、売掛金の回収まで、「会社のことを何でも相談できる相手」として、経営者の皆さまの隣に立つことを大切にしています。
「今まさにSNSで悩んでいる」という方も、「トラブルが起きる前に備えておきたい」という方も、まずはお気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な法律の解説であり、個別のケースについては状況によって結論が変わる場合があります。具体的な対応にあたっては、弁護士にご相談ください。

代表弁護士 保坂 康介(弁護士法人FORWARDジャパン)
秋田県秋田市出身、1977年12月生まれ
明治大学政治経済学部卒業、旧司法試験合格(2007年)、弁護士登録(2009年、第一東京弁護士会)
「争い・トラブルを好まず、紛争になる前の話し合いによる解決を大切にする」ことを信条としています。
2014年10月に法律事務所FORWARDを開設、2025年3月に現在地(渋谷区)へ移転
