契約書がない取引でも、売掛金を回収できますか?何が証拠になりますか?

回収できます。契約書がないことは不利な条件ですが、請求そのものができなくなるわけではありません。

契約書は、契約を作るための書類ではないからです。契約は、お互いが「これでお願いします」「わかりました」と合意した時点で成立します。書面がなくても成立すると、法律にも書かれています(民法522条2項)。

契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。(民法522条2項)

メールでの発注も、電話での依頼も、打ち合わせでの口約束も、すべて有効な契約。相手には代金を支払う義務があります。「契約書がないから払わなくていい」という言い分は、法律上通りません。では、契約書がないと何が困るのか。相手が「そんな約束はしていない」と言い出したときに、それを覆す作業が必要になることです。

※本記事は一般的な法律情報の解説です。個別の事情によって結論は変わりますので、具体的なケースは弁護士にご相談ください。

契約書の代わりに、これが証拠になります

手元に次のようなものが残っていないか、探してみてください。ひとつで足りなくても、いくつか組み合わせれば十分に示せます。

  • 発注時のメール、チャット、SNSのやり取り
  • 見積書、注文書、納品書、検収完了の連絡
  • 送った請求書と、それに相手が何も言い返してこなかった記録
  • 過去に同じような取引で入金があった履歴
  • 打ち合わせの議事録、録音データ
  • 作業報告書、写真、納品したものそのもの

意外と多いのが、相手から届いた連絡が決め手になるケース。「今月は厳しいので来月に」といった一言は、相手が支払いを認めた証拠になり得ます。催促のやり取りは、消さずに残しておいてください。

契約書があるときと、何が違うのですか?

違うのは、使える手段ではなく、最初の資料集めにかかる手間です。

契約書がある場合契約書がない場合
示し方書面を1通見せれば足りるメール・見積書・納品書などを組み合わせる
資料の準備期間数日程度数週間かかることも
相手の言い分反論の余地が小さい「その金額では合意していない」「発注していない」
もめやすい点契約書の書き方の解釈金額・納期・追加作業の有無
とれる手続き内容証明/支払督促/訴訟内容証明/支払督促/訴訟(同じ)
争点契約の成立自体は争わず、「契約に定められたことを相手が履行してくれなかった」という点での争いになる「そのような契約内容・条件では合意していない」「そもそも契約自体が存在しない」といった、契約の有無や内容そのものが争点となる

見ていただきたいのは、下から2段目。とれる手続きは同じです。契約書がないからといって、入口が閉ざされるわけではありません。

実際の解決事例

建築業を営むお客様(下請)からのご相談です。

元請から受けた建築請負工事で、契約書は交わしていませんでした。手元にあったのは注文書と請求書だけ。着手金(着工時の前払い)は入金されたものの、中間金と最終の報酬は未払いのまま。催促しても、元請は「工事が終わっていない」「工期が遅れた」と言って支払いに応じませんでした。

当事務所の対応

訴訟を提起し、次の証拠を提出しました。

  • 注文書・請求書
  • 通帳の入金履歴(着手金が支払われた記録)
  • 相手方代表者との通話録音を、文字に起こしてまとめた報告書

なかでも大きかったのが通話録音です。当事務所の弁護士が代表者と電話で話した際、代表者ははっきりと支払いに合意していました。

結果

約10ヶ月で、分割払いによる和解が成立。未払いだった中間金・最終報酬は、満額回収できました。決め手のひとつは、相手方の代表者自身が口にした「支払う」という言葉。先ほど触れた「相手の一言が証拠になる」ケースそのものです。

契約書がないことは、確かに不利な条件です。しかし、致命的ではありません。

諦める前に、確認していただきたいこと

1. まず、いつの取引かを確認

売掛金には期限があります。原則として、請求できると知った時から5年を過ぎると請求できなくなります(民法166条1項)。古い取引ほど、確認が先。相手が支払いを認めるような言動をとっていれば期限が延びる場合もありますが、ここは専門的な判断が必要な部分です。

2. 「何も残っていない」と決める前に、全部出す

ご相談の場で「何も残っていない」とおっしゃっていたのに、メールボックスを遡ると決定的なやり取りが見つかる。珍しいことではありません。断片的でも構いませんので、まずはすべてお持ちください。

3. 強い言葉での催促は、かえって不利になることも

感情的な督促は、後の交渉で相手に使われることがあります。支払いを求める意思をはっきり示すことは大切ですが、伝え方には気をつけてください。

これから取引を続けるために

いま発生している売掛金の回収と並行して、今後の取引には契約書を用意することをおすすめします。

「今さら契約書を出したら、相手を疑っているようで気まずい」。よくうかがうお声です。ただ、契約書は相手を疑うための書類ではありません。担当者が代わっても、社長が代わっても、同じ条件で取引を続けられるようにするための引き継ぎ資料です。実際、契約書を出したことで関係が悪くなった、というケースはほとんどありません。

当事務所では現在約20社の企業様と顧問契約を結び、契約書のチェックや売掛金回収のご相談に日常的に対応しています。IT、建築、飲食、内装リフォーム、スクール運営など業種はさまざま。ひとり社長の会社から従業員30〜40名規模の企業まで、幅広くご支援しています。

回収でお困りの案件がある方も、これから契約書を整えたい方も、まずはお気軽にご相談ください。

代表弁護士 保坂 康介(弁護士法人FORWARDジャパン)

秋田県秋田市出身、1977年12月生まれ

明治大学政治経済学部卒業、旧司法試験合格(2007年)、弁護士登録(2009年、第一東京弁護士会)

「争い・トラブルを好まず、紛争になる前の話し合いによる解決を大切にする」ことを信条としています。

2014年10月に法律事務所FORWARDを開設、2025年3月に現在地(渋谷区)へ移転

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