採用してみたら、思っていた人材と全然違った。
経営者の方からよく聞くお悩みです。 「試用期間中なんだから、合わなければ辞めさせられるだろう」と思っているとしたら、それは非常に危険な誤解です。
試用期間中であっても、解雇・本採用拒否には厳格なルールがあります。
手続きを誤ると、不当解雇として訴えられ、多額の賠償金が発生するリスクがあります。

本記事では、「本採用拒否」の法的な位置づけと、正しい進め方を弁護士が解説します。
試用期間の法的な性質
試用期間とは、企業が採用した社員の適性・能力・勤務態度などを評価するために設ける期間のことです。
しかし、多くの経営者が誤解しているのは、試用期間中も「労働契約は成立している」という点です。
「解約権留保付き労働契約」これが試用期間の正確な法的性質です。
つまり、一定の条件のもとで解約(=本採用拒否)できる権限を会社が留保した状態で、労働契約はすでに始まっている。そういう位置づけです。

試用期間だからといって、自由に雇用を打ち切れるわけではありません。
本採用拒否は「解雇」と同じ扱い
最高裁判例(三菱樹脂事件・昭和48年)では、試用期間満了時の本採用拒否は、通常の解雇よりも広い範囲で認められるとしつつも、「解雇権濫用法理」が適用されると明示されています。
つまり、本採用拒否が認められるのは、
採用当初に知ることができなかった事実が判明し、その社員を引き続き雇用することが適切でないと客観的に合理的な理由がある場合
に限られます。
「なんとなく合わない」「思ったより仕事ができない」では、原則として認められません。
本採用拒否が認められる主なケース
以下のような事情があれば、本採用拒否が認められる可能性があります。
① 経歴詐称が発覚した場合
学歴・職歴・資格などを偽っていたことが採用後に判明した場合。
② 勤務態度・能力に著しい問題がある場合
遅刻・無断欠勤の繰り返し、業務命令への反抗、業務遂行能力の著しい不足など。
ただし、一度や二度の失敗では不十分で、指導・改善の機会を与えた記録が必要です。
③ 健康上の理由で業務遂行が困難な場合
採用時に隠していた重大な疾病が発覚し、担当業務に支障をきたす場合。
ただし、障害者差別解消法などとの兼ね合いもあるため、慎重な判断が必要です。
④ 法令違反・社会的信用を損なう行為があった場合
在職中の不正行為、SNSでの会社批判投稿、反社会的勢力との関係など。
本採用拒否が認められにくいケース(注意)
逆に、こうしたケースでは本採用拒否が認められにくく、訴訟リスクが高くなります。
- 「期待していたほどの能力がなかった」(採用前から確認できた事情)
- 「性格が合わない」「雰囲気が合わない」
- 試用期間中に一度も指導・フィードバックをしていない
- 業務量が多すぎて失敗が生じた(会社側の環境に問題がある)
特に危険なのが、指導の記録を残していないケースです。
「何度も注意したのに改善されなかった」と主張しても、証拠がなければ会社側の言い分は通りません。
本採用拒否の正しい手続き
遅刻・欠勤・業務ミスなどは、日時・状況・内容を具体的に記録します。
口頭注意だけでなく、書面やメールでの指導記録も残してください。
一度や二度の問題では不十分です。「このままでは本採用が難しい」と明示したうえで、改善のための指導を複数回行うことが必要です。
本採用拒否は、試用期間満了日までに書面で通知します。口頭だけは避けてください。
試用期間が14日を超えている場合は、解雇予告(30日前の予告または解雇予告手当の支払い)が必要です。これを怠ると、労働基準法違反になります。
雇用保険の離職票、源泉徴収票など必要書類を適切に処理します。
試用期間の設定自体も「設計」が必要
そもそも、就業規則に試用期間の規定が整備されていますか?
試用期間中の評価基準・判断基準が明確になっていますか?
試用期間の規定が曖昧な就業規則では、本採用拒否の根拠が弱くなります。
採用前の段階から、就業規則・雇用契約書の設計が重要です。

まとめ:「試用期間中だから大丈夫」は危険な思い込み
本採用拒否は、通常の解雇よりも柔軟に対応できる余地はありますが、それでも明確な理由と適切な手続きが必要です。
- 問題行動の記録
- 指導・改善機会の付与
- 解雇予告手続き
- 就業規則・雇用契約書の整備
これらを欠いたまま進めると、後日、不当解雇として労働審判・訴訟に発展するリスクがあります。
「この社員、本採用どうしようか」と悩んでいる時点で、まず弁護士に相談することをお勧めします。手遅れになってからでは、解決コストが大きくなるからです。
顧問弁護士がいれば、採用・解雇リスクを事前に防げる
「問題が起きてから相談する」のではなく、「問題が起きないように仕組みを整える」
これが顧問弁護士の本来の役割です。
当事務所では、中小企業・ベンチャー企業の経営者様を対象に、採用・労務管理・就業規則整備から、トラブル対応まで、一貫してサポートしています。
「うちに顧問弁護士は必要か?」という段階からお気軽にご相談ください。


代表弁護士 保坂 康介(弁護士法人FORWARDジャパン)
秋田県秋田市出身、1977年12月生まれ
明治大学政治経済学部卒業、旧司法試験合格(2007年)、弁護士登録(2009年、第一東京弁護士会)
「争い・トラブルを好まず、紛争になる前の話し合いによる解決を大切にする」ことを信条としています。
2014年10月に法律事務所FORWARDを開設、2025年3月に現在地(渋谷区)へ移転
