育休中も有給休暇は付与される?労基法39条10項の正しい理解と企業の実務対応【弁護士が解説】

育児休業期間中も、年次有給休暇は原則として付与されます。

労働基準法39条10項により、育休期間は出勤率算定上「出勤したものとみなす」と明確に定められているためです。
「長期間休んでいたから有給は付与しない」という運用は違法となるおそれがあり、企業にとって重大な労務リスクとなります。

本記事では、経営者・人事担当者の方に向けて、育休と有給休暇に関する法的ルール、出勤率の計算方法、2025年改正法を踏まえた実務対応を、弁護士が解説します。

結論:育休中も有給休暇は原則として付与される

「育児休業中の従業員に、有給休暇を付与する必要はあるのか」
人事担当者の方から最もよく寄せられる質問のひとつです。

結論から述べると、育児休業を取得していた期間も、年次有給休暇は原則として付与しなければなりません

これは、労働基準法39条10項に明確な根拠があり、企業の裁量で「育休期間は欠勤扱いとする」「付与日数を減らす」といった運用をすることは認められていません。
違反した場合、労働基準法119条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則の対象となる可能性もあります。

人事担当者がこの基本ルールを誤解したまま運用してしまうと、知らず知らずのうちに違法状態となり、復職した従業員からの請求や、労働基準監督署からの是正勧告を受けるリスクが生じます。

労働基準法39条10項とは — 「出勤したものとみなす」規定の意味

年次有給休暇の付与要件(おさらい)

労働基準法39条1項・2項は、年次有給休暇を付与するための要件として、次の2点を定めています。

  • 雇入れの日から6か月間の継続勤務(以後は1年ごと)
  • 全労働日の8割以上の出勤

この「8割」というハードルが、育児休業との関係で問題となります。
仮に1年間まるごと育休を取得した従業員について素直に計算してしまうと、出勤日数はゼロ、出勤率は0%となり、「8割以上」の要件を満たせなくなってしまうからです。

育休期間は「出勤したものとみなす」

この問題を解決しているのが、労働基準法39条10項です。
同項は、以下の3つの期間について「出勤したものとみなす」と定めています。

種類根拠
業務上の負傷・疾病による休業期間労基法39条10項
育児休業・介護休業の期間育児・介護休業法に基づく休業
産前産後休業の期間労基法65条による休業

つまり、育休期間中は実際には労務を提供していなくても、法的には「出勤した」と扱われるということです。
これにより、育休取得を理由として有給休暇の付与日数が減ったり、付与自体が見送られたりすることはありません。

【条文】労働基準法39条10項(要旨)

業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間、育児・介護休業法に基づく育児休業・介護休業の期間、産前産後の女性が労基法65条により休業した期間は、出勤率の算定について「出勤したものとみなす」

出勤率の計算方法【ケース別シミュレーション】

「出勤したものとみなす」というルールは、具体的にどのように適用されるのでしょうか。実務でよく見るパターンを整理します。

1.基準期間の1年間すべて育児休業を取得した場合

– 育休期間:365日(基準期間すべて)
– 計算:育休期間は「出勤」扱い → 出勤率100%
– 結論:有給休暇は通常どおり付与される

2.基準期間の半年が育休、残り半年の出勤率が70%だった場合

– 育休期間:半年分(出勤扱い)
– 残り半年:出勤率70%
– 出勤率:(半年×100% + 半年×70%)÷ 1年 = 約85%
– 結論:8割を超えるため、有給休暇は付与される

3.産前産後休業 + 育児休業を取得した場合

産休と育休はいずれも「出勤したものとみなす」期間です。
両者を合算しても出勤率の計算上は不利になりません。

– 結論:有給休暇は通常どおり付与される

4.パート・アルバイトの場合

労働基準法39条3項により、週所定労働日数が4日以下(または年間216日以下)のパート・アルバイトについても、出勤率8割以上を満たせば、勤続年数と所定労働日数に応じた比例付与が必要です。

「正社員ではないから付与しなくてよい」という運用は誤りです。育休を取得したパート・アルバイトの従業員にも、同様に有給休暇が付与されます。

育休中に有給休暇を「取得」することはできるのか

ここまでは「付与」の話でしたが、「育休中の従業員が有給を申請してきた場合、認める必要があるのか」という相談も実務上よく受けます。
結論として、育児休業中の従業員は、有給休暇を取得することができません

なぜ取得できないのか

年次有給休暇は、本来「労働義務のある日」に労働を免除して賃金を保障する制度です。
一方、育児休業中は、もともと労働義務そのものが免除されています。
つまり、「免除すべき労働義務」が存在しないため、有給休暇という制度を観念する余地がないのです。

実務上のポイント

  • 付与と取得は別の話:育休中でも有給は「付与」されるが、「取得」はできない
  • 取得できるのは復職後:付与された有給休暇の権利は、復職後に行使することになる
  • 時効に注意:有給休暇の権利は付与日から2年で時効消滅する(労基法115条)。
    育休が長期にわたると、一部の有給が消化できないまま消滅するケースがあるため、企業によっては「積立休暇」制度を任意で設けて対応している例もある。

年5日の有給取得義務と育休復職者の関係

年5日取得義務とは

2019年4月の労基法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、使用者が時季を指定して年5日取得させる義務が課されました(労基法39条7項)。
違反した場合、1人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります。

育休復職者にも年5日取得義務は適用されるのか

ここが実務上の悩みどころです。判断のポイントは、「基準期間内に何日の出勤日があるか」です。

  • 復職後、次の基準日まで出勤日が5日以上ある場合
    → 残りの出勤日の中から5日を指定し、有給休暇を取得させる義務がある
  • 復職後、次の基準日まで出勤日が5日未満の場合
    → 残りの出勤日数分について有給休暇を取得させれば足りる

つまり、「育休復職者だから年5日取得義務は適用されない」と一律に判断するのは誤りです。
復職時期によって、取得させるべき日数が変動するため、従業員ごとの個別管理が不可欠となります。

2025年改正育児・介護休業法を踏まえた実務対応

2025年4月および10月に施行された改正育児・介護休業法は、育休制度そのものだけでなく、企業の労務管理全般に影響を及ぼしています。
有給休暇制度との関係でも、無視できない論点が増えました。

2025年4月施行の主なポイント

  • 子の看護休暇の対象拡大:対象となる子の年齢が「小学校就学前」から「小学校3年生修了まで」に拡大
  • 取得理由の柔軟化:病気・ケガに加え、感染症による学級閉鎖、入園式・卒業式等の行事参加も対象に
  • 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大:「3歳未満の子」から「小学校就学前の子」へ
  • 育休取得状況の公表義務:従業員300人超の企業に拡大

2025年10月施行の主なポイント

  • 育児期の柔軟な働き方を実現するための措置:3歳から小学校就学前の子を養育する労働者向けに、企業が5つの措置(始業時刻の変更、テレワーク、保育施設の設置、養育両立支援休暇の付与、短時間勤務)の中から2つ以上を選択して導入することが義務化
  • 個別周知・意向確認の義務:3歳未満の子を養育する労働者に対し、適切な時期に制度内容を周知し、利用意向を確認する義務

有給休暇制度との接続点

改正により、企業は就業規則の全面的な見直しが必要になっています。
このとき、有給休暇規定との整合性が取れているかを必ず確認すべきです。

特に、新設される「養育両立支援休暇(年10日以上)」と既存の年次有給休暇との関係、子の看護休暇の取り扱いと出勤率の計算、テレワーク導入時の労働日カウントなど、検討すべき論点は多岐にわたります。

企業が陥りがちな労務トラブルと予防策

トラブル例1:「育休期間は欠勤扱い」と誤解して付与しなかった

復職した従業員から有給休暇を請求された際に、「育休期間は欠勤として計算したため、出勤率8割を満たしていない」として付与を拒否したケース。
これは典型的な違法対応であり、未払賃金請求・労基署からの是正勧告・損害賠償請求に発展するリスクがあります。

予防策:就業規則の年次有給休暇規定に、育休期間の取り扱いを明記する。

トラブル例2:有給休暇の時効消滅を巡る紛争

育休が長期にわたり、付与された有給休暇が復職前に時効消滅したことについて、従業員から「事前に説明がなかった」と苦情を申し立てられるケース。

予防策:育休前面談で、有給休暇の付与日・残日数・時効消滅日を書面で交付しておく。任意制度として積立休暇制度を導入することも有効。

トラブル例3:復職後の年5日取得義務の管理漏れ

復職者の有給管理が他の従業員と分かれて運用されておらず、年5日取得義務を満たさないまま基準日を迎えてしまうケース。

予防策:育休復職者専用の有給休暇管理シートを設け、復職日から次の基準日までの出勤日数と取得実績をモニタリングする。

トラブル例4:就業規則と運用の乖離

「育休中の従業員には有給を付与しない」といった、労基法に反する規定が古い就業規則に残っているケース。
2025年改正への対応をきっかけに、長年見直されていない条項が発覚することがあります。

予防策:法改正のタイミングで就業規則の全面点検を行う。労務に詳しい弁護士・社労士による定期的なレビューを受ける。

まとめ — 労務リスクを未然に防ぐために

育児休業と年次有給休暇の関係は、一見シンプルに思える論点ですが、出勤率の計算、年5日取得義務との接続、時効消滅、2025年改正法への対応など、実務上は複数の論点が複雑に絡み合います。

人事担当者が法令の趣旨を正確に理解し、就業規則と日々の運用にきちんと反映できているかどうかは、企業の労務リスクを大きく左右します。
「長年この運用でやってきたから問題ない」と思っていた制度が、実は法令違反だった——というケースは、決して珍しくありません。

特に、近年は従業員の権利意識が高まり、復職後にSNSや労働組合・弁護士へ相談するケースが増加しています。
「気づいたときには大きなトラブルになっていた」という事態を避けるためには、法改正のタイミングで就業規則を見直し、日常的に労務の専門家へ相談できる体制を整えておくことが何より重要です。

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代表弁護士 保坂 康介(弁護士法人FORWARDジャパン)

秋田県秋田市出身、1977年12月生まれ

明治大学政治経済学部卒業、旧司法試験合格(2007年)、弁護士登録(2009年、第一東京弁護士会)

「争い・トラブルを好まず、紛争になる前の話し合いによる解決を大切にする」ことを信条としています。

2014年10月に法律事務所FORWARDを開設、2025年3月に現在地(渋谷区)へ移転

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本記事は2026年5月時点の法令・行政解釈に基づいて作成しています。最新の運用や個別事案については、必ず弁護士までご相談ください。

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